武部正美さんからのメッセージ
(1)人間の思い上がりを考える (短頭種)
地球が誕生して46億年。その6億年後には生命が誕生し、さまざまな進化を経て、犬の先祖であるオオカミが誕生したのは約80万年前。猫の先祖であるリビアヤマネコの誕生は約13万年前と言われています。いっぽう我々人間であるホモ・サピエンス・サピエンスの誕生は約10万年前。つまり我々人間は彼らの後輩、単なる新参者に過ぎないのです。
ところが、この新参者がオオカミとリビアヤマネコから犬と猫という動物をつくりだしてしまいました。最初のうちは、先祖であるオオカミやリビアヤマネコに姿恰好の似た犬や猫でしたから問題はなかったのですが、次第に図に乗ってきて、おかしな犬猫をつくり始めてしまったのです。その典型なのが犬ではブルドッグを始めとするパグ、ペキニーズ、ボストンテリア等の短頭種。猫ではエキゾチックを始めとしたペキニーズタイプのペルシャ猫やシャム猫、ヒマラヤン等が挙げられます。目的は分かりませんが、多分人間顔にしたかったのでしょう。本来の先祖たちと違って鼻がぺちゃんこですから、呼吸がし難くなります。その証拠にこうした犬や猫達は凄い鼾をかきます。空気の通りが悪くなるわけですから当然です。そのため特に犬は呼吸による体温調節ができなくなって熱中症に罹りやすくなります。猫は犬ほどではありませんが、それでも顔がぺちゃんこのために涙管が閉塞し涙が溢れ出て、いつも眼頭が汚らしくなります。また犬も猫も顔がぺちゃんこになったために、眼球が飛び出してきますから、傷つき易くなったり乾燥し易くなったりで角膜の病気が多くなります。彼らは息苦しい不快な生活を一生強いられているのです。
最近イギリスではこうした動物を改良する機運が高まっているようですが、それよりもこうした犬や猫の繁殖をやめてつくらない、あるいは飼わないといった方向に進めるのが一番ではないでしょうか。
(2)人間の思い上がりを考える(可哀そうな種類)
前号では、犬猫の短頭種が毎日不快な生活を送っている話しをしました。つまり、頭短種は呼吸がし難く、熱中症や眼の病気になりやすく、特に犬の場合には自然分娩が難しいという話しを------。今回は短頭種以外にも辛い生活を強いられている種類がいることをお話したいと思います。
垂れ目で、顔の皺が多く耳の長いブラッド-ハウンドという犬種がいます。この種類は、「悲しげな風貌」を強調しようとする選択交配が行われてきたために、結膜炎の原因にもなる眼瞼外反症(あかんべーをしたような状態)が極めて頻繁に現れています。中国の犬であるチャウチャウは、あの菱形をしたつぶらな眼を強調せんがために、眼瞼が内側にめくれ込んでしまう所謂眼瞼内反症が多く認められます。また全身の被毛が殆どないメキシカン-ヘアレスや全身皺だらけといってもよいシャーペイなどは、当然気温の変動に対応できなかったり、皮膚病になりやすかったりといった犬種で、飼い主は必要以上に世話や配慮が要求されます。
いっぽう猫は犬程人間の手は加えられていませんが、それでもスフィンクスといって全くの無毛の猫がいます。寒さや乾燥に弱く、気候の変動に対応できません。また耳翼が縮んだような形態の猫スコッティシュフォールドもいます。耳翼が縮んで寝たような状態ですから耳道が蒸れて外耳炎なりやすく、また耳道の治療も大変です。こうした生まれながらの身体的欠陥は、当然のこと自然が創造したものではなく、所詮人間の思い上がりによる勝手や面白半分が生み出した結果に過ぎません。このような種類を生み出した人間は勿論のこと、こうした種類の動物を飼いたいと考える飼い主側にも責任があるのではないでしょうか。そして、それ以上にこうした問題に対し声を大にして社会に訴えてこなかった我々獣医師にも重大な責任があると思います。
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